新世紀に鳴り響く14のチャイムたち。

何もかにもが不確かに感じられるこの世界の中で、
懸命に生き抜こうとする様々な「個」に寄り添い、
「個」を励まし、「個」を讃え、「個」を謳う、温かな視点。そして、
「個」と、「個」をとりまく世界を居抜く、ジャーナリスティックな視点。
この絶妙なバランスが、圧倒的リアリティを描き出し、かつ、
名うてのミュージシャンたちが、歌を、歌に登場する人物たちを
より一層、ひきたて、浮かび上がらせていく...。

すべての「個」に平等に与えられるTHE SUN。
「個」の数だけ存在する、それぞれのためのTHE SUN。

このアルバムに寄り添いながら、
うなずき、笑い、考え、悩み、勇気づけられ...

「時代を映しだすロック性。多くの人の胸を撃つであろうポップ性。
 これは、何ともすごいアルバムだ!」

...と、陳腐にまとめようとする僕を粉々に砕いてくれた、
最後のチャイム、『太陽』

「夢を見る力をもっと」
そう、今は、夢を実現するどころか、夢を見るだけでもタフな時代
「ここにいる力をもっと」
そう、今は、前に進むどころか、ふんばるだけでもタフな時代
「風に舞う力をもっと」
そう、今は、空を飛ぶどころか、舞うだけでもタフな時代

何とも表現し難い歌だ。
このアルバムの中で、もっともヘヴィに響くのに、
頭がグラグラするほどに、混乱してしまうのに、
聴き終わった後には、
空の青さが少しだけ輝きを増したように感じてしまう。
自分が「どこ」に立っているのか、思い出させてくれる。

スッキリした。

OK,Moto.
僕は、このアルバムに逃げこまない、どんなに心地よくても。
でも、この時代から逃げ出さない、どんなにウンザリさせられても。
僕は、このアルバムとともに生きていく。
この時代を生きて行く。

だって、そうだろ?
「夢見ることは誰にも止められない」のだから。

佐野元春NEW ALBUM『THE SUN』に寄せて

追記:この文章を佐野元春のWEBサイトに、寄稿し、現在「評論」コーナーにて紹介されております。