全国高校サッカー選手権大会決勝

 今大会のおかげで、ようやく新垣結衣の名前と顔が一致した。たしかにかわいい。んが、その存在もかすむよね、激闘の前には。
もしも「何も」なければ、僕は作陽(岡山)を応援していたかもしれない。攻守のバランス、各々のしっかりとした技術、そのベースになる「ボールに対してしっかりと身体を入れる」ことができる、ということ。一方の、盛岡商(岩手)を率いるのは、宿将、斎藤重信監督。大船渡高校時代には、小笠原満男鹿島アントラーズメッシーナ)を育てたとあっては、僕は盛岡商をテレビ越しに応援。
 満男のゲキ*1 が効いたのか、序盤から盛岡商が猛攻をしかけるも、作陽はゴール前でふんばっては徐々に落ち着きをとりもどし、攻撃のリズムを作りにかかる。一方、盛岡商は、美しいまでのフラットな4バックを敷き、その前のボランチとともに「壁」ではなく「ブロック」を形成して弾き返す。後半、作陽はエースストライカーながら、左足の負傷で「スーパーサブ」と言える村井(#9)を投入、その卓越したセンスで崩しにかかる。後半10分、その村井がハーフ・カウンターとも言える攻撃からターンでDFをかわし、右足を一閃、バーを叩く>そのリバウンドを右サイドの桑元(#13)がヘディングで押し込んでゴール!ついに均衡が崩れる。このシーン、盛岡商のDFがいないわけではない。自陣でボールをカットした桑元が自ら右サイドをスルスルとドリブルで上がり(この時村井は中よりを上がり、さらにその逆サイドよりにも一人が上がっていく)、相手DFがよってくるときに村井にボールを預けて自らはクロスしてゴール前中央に走り出す。この時、盛岡商のDFが周囲にいるが、村井に行きつつも、桑元も気になるその一瞬に村井のシュートがあったわけであり、そのリバウンドに詰めたのが、クロスした桑元自身だったわけだ。
 敗因のない敗北はないし、原因のない失点はない。ただ、このシーンに関しては、村井のアイディアと技術、労を惜しまない桑元ともう一人(逆サイド上がった選手)の連動と言い、これはアタッカー陣を褒めるべきであろうし、作陽監督の指導の賜物だろう。もちろんと言ってもいいだろう、盛岡商は気落ちすることなく反撃に転じる。また、さすがに連戦での疲労もあろう、若干中盤のプレスがルーズになったこともあり、撃ち合いの様相を呈していく。
 そして後半18分、左ペナルティエリアに侵入した盛岡商の選手が倒され、PKをゲットする。このシーンだけを切り取ると、ちょっと作陽に酷かな、とも思えるが、この少し前に、逆の右エリアでもっとPKくさいシーンがあったから、あわせ技で...ってことなのだろうか。
 ところが、このシーンで、「狙い過ぎたかもしれない(解説のゴン中山隊長談)」林(#11)のシュートは、惜しくも左に外れてしまう。だが、ここで盛岡商のイレブンの心が折れることはなかった。泥臭くも反撃を敢行し、当の林自身には、斎藤監督が声帯を一枚失った喉に指を当ててふるわせながらも励ましの声をかける。
 ついに後半26分、足をすべらせた相手DFをおきざりにした盛岡商の左サイドアタッカーPA奥深くに侵入、カバーリングに来た石崎(#3)の足があと1歩およばないというタイミングでマイナスの折り返し>それがさきほどPKをミスした林の足下に>一度ボールをおさめきれないが>すなやくトウキックで迫る相手GKの脇の下を素通ししてゴール!最近涙もろい僕はもう...ですよ...。
 さて、観客は泣いていても許されるが、選手、監督たちはそうはいかない。作陽監督は、唇を噛むような表情で戦況を見つめるが、ここで斎藤監督ほどの余裕を、選手たちに与えられたのならば...というのは、僕が傍観者だから言える台詞なのかもしれない。
 後半40分。盛岡商が左サイドをドリブルでかけ上がる。鋭く左PA奥深くに侵入してフルストップ。並走し肩をぶつけていた作陽DFは、石崎主将(#3)だった。さきほどは一歩届かなかったためか。今回は逆に一歩、止まりきれなかった。マイナスの丁寧なパス>詰めた東館(#10)がスルーし、真ん中に走り込んだ千葉(#8)が流し込む。逆転!冬場、グラウンドが使えず、体育館で技術を磨く盛岡商。そのパスワークが相手ゴール前で炸裂したわけだ。
 そこでだ。膝をつく選手もいる中、自らが突破された石崎はすぐさまボールを手にとり、残り時間の反撃に望みを託す!ここに主将の気概を観た。
 準決勝では、残酷とも言える失点を喫した八千代の主将が、試合後に泣き崩れるGKに声をかけ、ピッチ上では自らが涙を流すことはなかった。やはり、主将は主将たるべき選手が担っているのだと思う。
 タイムアップ。勝敗は決した。盛岡商、優勝おめでとう!作陽、感動をありがとう!他にことばが見つからないや。